パワハラ防止研修で学ぶ判例~高卒新人自殺の損害賠償が約7260万円~

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パワハラ防止研修お役立ちマニュアル
パワハラ防止研修で学ぶ判例~高卒新人自殺の損害賠償が約7260万円~

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パワハラ(パワーハラスメント)、パワハラ加害者(行為者)という言葉を聞かない日はありません。パワハラ(パワーハラスメント)という言葉は2001年に日本で作られた造語ですが、「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について正しい理解をしている人は多くはありません。それは、パワハラ(パワーハラスメント)にはグレーゾーン(確定診断ができない状態)のケースが多く存在しているからです。このコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修で「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について理解を深めることができるパワハラ(パワーハラスメント)裁判事例について解説していきます。

【目次】

  1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型
  2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること
  3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景
  4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動
  5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯
  6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠
  7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任
  8. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例~高卒新人自殺の損害賠償が約7260万円~
  9. まとめ

 1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型は、受け手(被害者)が、行為者(加害者)や使用者(事業主)に対して慰謝料等の損害賠償を請求するケースと、使用者がパワハラ(パワーハラスメント)行為者(加害者)に対して懲戒等の処分をしたことに対して、行為者(加害者)が、処分が重すぎるとして処分の無効確認等を求めるケース(処分を争う行為者)による請求との2つに大きく分けることができます。  


当コラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)について、「損害賠償請求(受け手による請求)」と「処分を争う行為者(加害者)による請求」の裁判事例について解説していきます。  



 2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)の置かれている状況がパワハラ(パワーハラスメント)の判断に影響する場合があります。例えば、一般的な社員への厳しい指導よりも新卒社員のように社会人経験に乏しく対応力に限りのある者に対する厳しい指導の方がパワハラ(パワーハラスメント)と判断されやすい傾向にあります。  


また、パワハラ(パワーハラスメント)は、役職的に上の立場の者が下の立場の者を見下して、パワハラ(パワーハラスメント)に及んだと思われるケースが多くあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)事案が判断される上で受けて(被害者)の置かれている状況が大きく影響することを理解しながら判例を読み解くことも大切です。  


   

 3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景

パワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)側に、行為者(加害者)から厳しい言動を浴びせられる一因(たとえば、何度指導してもミスが繰り返される等)となったと思われる言動がみられることも多くあります。  


また、受け手(被害者)が精神的な問題を抱えていて、それに上司が対応しきれずに受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)を受けたと感じてしまったと思われる事案もあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)には、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景があり、これを無視して行為者(加害者)を処分するだけでは、事態の根本的な解決にならないこともあります。  


裁判だけではなく、社内でパワハラ(パワーハラスメント)が起きた時は、事実確認だけではなく、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景も丁寧にヒアリングする必要がここにあります。  



 4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動

どのような言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか分からないという人は多くいると思います。裁判例が不法行為にあたると認定した行為者(加害者)の言動(違法といえるパワハラ)について参考にすると、職場で起きている言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか、しないかの判断材料に用いることができます。  


職場のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口における事実確認の時も受け手(被害者)からは、裁判例などにみられるように「具体的」に聴き取りをすることが重要です。ただ、「人格を否定されました」だけでは、十分な証拠にはなりえず信用性を肯定することも難しくなります。パワハラ(パワーハラスメント)には、受け手(被害者)の「過剰反応」ともみられる事案があり、裁判例でも、受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)と主張した言動は不法行為には当たらないと判断しているケースがありますので参考にしてください。



 5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯

裁判に至る背景は裁判により異なりますが、管理職や事実調査の担当者らの対応ミスによって、訴訟に発展したと思われるケースがあります。例えば、懇親会の席での管理職から部下へのパワハラ(パワーハラスメント)を社員間の個人的な問題と判断した会社が十分な被害者対応をしなかったために、被害感情が悪化した被害者が退職後に管理職と会社を被告として訴訟提起した事案があります。また、事実確認担当者が被害者に不用意な発言をしたことで被害感情が悪化した事案などもあります。  


これとは対象的に、裁判には至ってはいるが、受け手(被害者)からの通報・相談をきっかけとして使用者が事実確認を適切に行い、行為者(加害者)を処分しているケースもあります。これらの使用者の対応は、パワハラ(パワーハラスメント)事案が発生した場合の事実確認や被害者・行為者(加害者)に対する実際の対応例として参考にしてください。  



 6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠

パワハラ(パワーハラスメント)の訴訟は、客観的証拠が少ないため、下級審と上級審とでパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定するかの判断が分かれるケースも多くみられます。組織で事実調査をしたところ、受け手(被害者)が主張する行為者(加害者)の言動があったと認めてよいか迷うこともあります。  


裁判所が、どのような証拠に基づいてパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定したのか、また、被害者の供述の信用性をどのようにして判断したのかがわかる部分について、裁判例を参考に組織の相談対応としての事実確認をする際の参考にしてください。  



 7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任


■ パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任

パワハラ(パワーハラスメント)行為をした者は、民法上、不法行為責任を負う(民法709条)可能性があり、その場合は、受け手(被害者)の損害に対して賠償する責任が発生します。  


一方、会社も、民事上の損害賠償責任が発生します。その構成に「不法行為責任」と「債務不履行責任」の二つが考えられます。  


不法行為責任においては、使用者責任(民法715条)が問題になることが多いといえます。特に、パワハラ(パワーハラスメント)の場合は、業務指導の一環としてなされた行為が問題となることが多いと想定されるため、「事業の執行につき」の要件を満たすことが多くなります。その場合、使用者は、損害賠償責任を負い、その損害賠償の範囲は、不法行為責任を負うパワハラ行為者(加害者)本人と同じものです。   


もう一つの債務不履行責任とは、企業に配慮義務の違反があるとして、その債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負わせるという考え方になります。安全配慮義務(労働契約法5条)を、パワハラ事案に即して、より具体化した配慮義務ともいえます。同条をさらに進めて、人格的利益(良好な職場環境で働くという利益)が不当に侵害されないよう配慮する義務があるとする考え方です。 



 8. パワハラ裁判例~高卒新人自殺の損害賠償が約7260万円~


■ パワハラ裁判例~高卒新人自殺の損害賠償が約7260万円~

  • 判例のポイント
    • 指導する上司が、我慢の「決壊点」を超えてパワハラ(精神的攻撃)に及び、被害者が自殺した事案で、上司と会社に対して、被害者の精神的苦痛だけでなく、自殺による損害の賠償(約7260万円)まで命じた判例。
    • 被害者が高卒新人であったことが、パワハラの判断と自殺に関する損害賠償の判断に影響した。
    • 被害者が行為者から言われたことなどを記載していた手帳がパワハラの重要な証拠となった。 


  • 行為者(加害者): D(リーダー。Vの直属上司)、E(メンテナンス部部長。Vの上司)

  • 受け手(被害者): V(高校在学中アルバイトから高校卒業後の平成22年4月に正社員となり、メンテナンス部に配属されて外注先の消防設備等の保守点検業務に従事した。正社員入社後約8か月で自殺。)

  • 背景等
    • Vには、特異な性格傾向や既往症など、特に問題はなかった。

    • Vは、外注先の機器の外回り点検業務を担当し、直属の上司にあたるDが同行して指導していた。

    • Dは、Vの仕事の覚えが悪いことから、自分が注意したことは必ず手帳に書いておいてノートに書き写すようにVに指導していた。

    • 平成22年7月、Vの仕事上の失敗が多く、Dが運転する車中で居眠りをするなどが重なったため、いらだちを覚えるようになったDが、Vに対し、「一人で勝手に行動しない。分かりもしないのに返事をしない。」と言うようになった。

    • 平成22年7月半ばころ、Vは、仕事時間中に母に電話し、「仕事をやめてもいいか」と尋ね、30分ほど、泣きながら話をし、自分ではちゃんとやっているつもりなのに、後で見るとミスをしていて、ペアで作業している人に迷惑がかかり、叱責されたことなどを話した。


  • ➀Vの手帳に記載され、判決によりパワハラと認定されたDの言動。平成22年8月ころ以降
    • 「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分?」「詐欺と同じ、3万円を泥棒したのと同じ」「毎日同じことを言う身にもなれ」「わがまま」「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」  

    • 「待っていた時間が無駄になった」「聞き違いが多すぎる」「耳が遠いんじゃないか」

    • 「嘘をつくような奴に点検をまかせられるわけがない」「点検もしてないのに自分をよく見せようとしている」

    • 「人の話をきかずに行動、動くのがのろい」「相手するだけ時間の無駄」

    • 「指示が全く聞けない、そんなことを直さないで信用できるか」「何で自分が怒られているのかすら分かっていない」「反省しているふりをしているだけ」「嘘を平気でつく、そんなやつ会社に要るか」「嘘をついたのに悪気もない」

    • 「根本的に心を入れ替えれば」「会社辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキ作れば、店でも出せば、どうせ働きたくないんだろう」「いつまでも甘々、学生気分はさっさと捨てろ」「死んでしまえばいい」「辞めればいい」

    • 「今日使った無駄な時間を返してくれ」


  • ➁Vの遺族が主張したDの言動
    • Dは、Vに対し、暴力を振るっていた。

  • 遺族が主張したE部長の行為
    • Dによるパワーハラスメントの放置、Vの恒常的な長時間労働の放置等。

  • Vの自殺 
    • 平成22年9月には、Vは、Dの言動を真摯に受け止めて、「自分がアホらしい」「辞めればいい、死んでしまえばいい」「少しはDさんの負担も考えてみろよ」などと手帳に書き、葛藤していた。  

    • 秋ころには、Vは、自宅において笑顔がなくなり、いつも疲れたような難しい顔をするようになった。また、帰宅をしてすぐにソファに横になり、食事もとらず、風呂にも入らないでいることが多くなった。  

    • 平成22年10月、VはE部長に対し、退職の申し出をした。  

    • 平成22年11月29日、Vは、ロープを購入し、遺書を残して自宅で縊死(いし)した。  

    • Vの遺書には、社長やE部長への感謝と謝罪の言葉のほか、Dについては「多分社員の中で一番迷惑をかけてしまいました。直せと言われ続けていたのに、何も変われなくてごめんなさい、とりあえず私はあなたが嫌いです。大嫌いです。でも、言われ続けていたことに嘘はなかったです。」等と書かれていた。  


  • 遺族による提訴
    • Vの父が、VはDとE部長のパワハラや会社による加重な心理的負担を強いる業務体制等により自殺したと主張して、D・Eと会社に対し、連帯して約1億1千万円の損害賠償を請求して提訴した。

  • 判決の概要
    • 福井地裁は、Dのパワハラを認定し(➀の発言は認定するが➁の暴力は認定せず)、Dと会社に対して、約7260万円(逸失利益約4360万円+死亡慰謝料約2300万円+弁護士費用等)の支払いを命じた(連帯責任)。なお、E部長の不法行為責任は否定した。

  • 判決の理由
    • (Dについて)Dの言動は、「仕事上のミスに対する叱責の域を超えて」Vの「人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ず、不法行為に当たる」。ただし、DがVに対して暴力を振るったことに沿う証拠はない(暴力は認定できない)。  

    • (E部長について)Vのメンテナンス業務が外注先での作業が大半を占めることからすると、DのVへの指導の実態についてE部長が把握するのは困難であり、VがE部長に対しDからパワハラを受けていることを訴えた事実も認められないことからすると、パワハラ放置の主張は認められない。また、E部長の役割は作業現場の人員配置と作業日程の決定にとどまっていたこと等に照らすと、長時間労働の放置の主張も認められない。   

    •  

    • (Dの不法行為とVの自殺との相当因果関係について)Vは、高卒の新入社員であり、作業をするに当たっての緊張感や上司からの指導を受けた際の圧迫感はとりわけ大きいものがあるから、Dの言動(➀)から受ける心理的負荷は極めて強度であったといえ、Dの言動(➀)はVに精神障害を発症させるに足りるものであったと認められる。そして、Vには、業務以外の心理的負担を伴う出来事は確認されていないし、既往症等においても問題はなく、性格的な偏りもなく、むしろ、手帳の記帳を見れば、きまじめな好青年であるといえる。したがって、Vは、自殺当時、Dの言動を起因とする中等症うつ病エピソードを発症していたと推定され、正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害された状態になり、自殺に至ったといえ、Vの自殺とDの不法行為との間の相当因果関係が認めらえる(Vの自殺に関するDの損害賠償責任を認める)。  

    • 会社は使用者責任(民法715条)によりDと連帯して責任を負う。   

    • なお、判決は、Vの手帳について、「記述内容が客観的事実と符合していることが認めらえる」等として、手帳に記載されたDの言動を認定した。他方で、遺族が主張したDの暴行については、「DがVに対して暴行を振るったことに沿う証拠はない。」として認定しなかった。   



 9. まとめ

今回のコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)の裁判について詳しく解説してまいりました。組織のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口に寄せられた相談の初動対応を間違えると被害感情が悪化して裁判に至るケースも多くあります。パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景は事案により異なりますが、受け手(被害者)の心情に配慮しながら、パワハラ裁判事例を参考にしつつ、慎重に対応をすることが求められます。


近時は、パワハラ(パワーハラスメント)の事案が増えており、最悪のケースになると命を失う人も出てきます。パワハラ(パワーハラスメント)は企業と個人の存立に多大なる影響を及ぼすリスクの高い経営課題であると認識し、パワハラ裁判に至ることがないよう企業も従業員も尽力することが重要です。  



 最後に

パワーハラスメント(パワハラ)対策でお困りの企業様は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会までご連絡ください。パワーハラスメント(パワハラ)加害者(行為者)更生支援研修、パワーハラスメント(パワハラ)防止研修をはじめ、パワーハラスメント(パワハラ)を防止するための各種サービスをご提供しております。日本全国の皆さまからのご連絡をお待ちしております。


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