パワハラ裁判例~被害者の解雇が有効と判断された事例~
パワハラ裁判例~被害者の解雇が有効と判断された事例~
パワハラ裁判例~被害者の解雇が有効と判断された事例~
- 判例のポイント
- 問題行動がみられた被害者に対する解雇が有効と判断され、パワハラも否定された事案
- 行為者(加害者): 院長・事務長
- 受け手(被害者): V(内科医長)
- 勤務先: 私立病院(財団医療法人Yが運営)
- 背景等
- Vは、病院の取決めに反し、午前9時とされている外来の診療開始時間をしばしば守らなかった。
- Vは、院長に相談することなく保険適応外であるノロウイルスの抗原検査を行った。
- Vは、分掌された血液透析患者の年金に関する書類の作成を相当程度怠った。
- Vは、必要な手続きを行わずにカルテを借り受けたままにした。
- Vは、個人所有の端末機を無許可で病院のインターネット回線に接続した。
- Vは、病院の指示に反して駐車場所を変更しなかった。
Vには以下のような問題行動が見られた。
- Vの解雇
- Vには上記のような問題行動が見られたため、YはVを解雇した。
- Vが主張するYによるパワハラ
- Vの受持ち患者数を減らした。
- Vよりも医師免許取得が遅く当病院での勤務開始も遅いL医師とVとの人事上の序列を逆転させた。
- 院長により退職勧奨(Vは退職強要されたと主張した)、Yによる解雇の意思表示直後(解雇の効力発生前)に事務長がVに対し退職金を現金で持参し受領するように求めたこと、Yが解雇の効力発生日以前にVに無断で医師会退会届を作成し医師会に提出したこと。
- Vが当病院内で使用する部屋のドア上部に防犯カメラを設置したこと(Vは、YがVの行動を監視するためのものであったと主張した)。
- YがVを解雇し、事務長がVの妻に対して解雇予告の電話をすると述べた(Vは事務長の発言を脅迫に当たると主張した)。
- Vによる提訴
- Vは、Yによる解雇は無効であることと、パワハラおよび不当解雇が不法行為等に構成するとして損害賠償請求をして、提訴した。
- 判決の概要
- 福井地裁は、YによるVの解雇については、Vの就業状況が著しく不良で医師として相応しくないと認められるから就業規則所定の解雇事由があり、解雇権の濫用にもあたらないとし、パワハラの主張については、①~⑤の行為は不法行為ないし債務不履行を構成するものとは認められないとして、Vの請求を棄却した。
- 判決の理由
- Yは勤務する医師らにどのように患者を受け持たせるかを決する裁量権を有している。そして、Vの受持ち患者数の減少程度は、半減といった著しいものではないし、平成15年頃の減少は、Vの異動話が具体的に進められる中で行われたものであり、Vの退職に備えるという合理的理由に基づくものであったと認められる。さらに、平成17年の減少は、その年に発生したVと患者とのトラブルを背景に、患者とのトラブル防止という観点から行われたものと認められ、これについても合理的な理由があるということができる。したがって、Yに裁量権の逸脱・濫用があったとは認められない。
- 使用者の行う人事上の評価は、それを行う使用者側に一定の裁量があることが否定できない。そして、Vは、医師としての経験年数および当病院における勤務年数においてはL医師に優るものの、Vには解雇事由と評価できる事情が認められたのに対し、L医師は、血液透析に係る治療を当病院に本格的に導入し、責任者として同治療の施行と指導にあたるなど評価できる功績があったのであるから、経験年数・勤務年数を踏まえ、これら事情を評価した結果として、YがL医師を当病院のKセンターの副センター長に就けて、人事表上もVとL医師の序列を逆転させたことについて裁量権の逸脱・濫用があったとは認められない。
- 院長からの退職強要を認めるに足りる根拠はない。退職金持参行為に退職を受け入れて貰いたいとの希望が伏在していたとしても、それ自体が社会的相当性を欠く違法なものとはいえない。医師会退会届の作成・提出は、Yの誤解によるものであり、YはVの抗議を受けて退会届を撤回しVに謝罪しており、Vの社会生活に具体的な支障が生じたことも認められないから、不法行為を構成するものとは認められない。
- YがVの行動を監視するために防犯カメラを設置したとは到底認められないし、Vの部屋のドア上部の防犯カメラが映す範囲からすればVに何らかの損害が生じているものとも認められないから、Yによる防犯カメラの設置がVのプライバシー権および人格権を侵害したとは認められない。
- 本件解雇は有効であるし、事務長の発言にVが立腹したことは肯ける面はあるものの、Vに対する脅迫行為を構成する程度のものとは認められず、パワハラに当たるものとも認められない。
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