Column – 31
パワハラ防止研修お役立ちマニュアル
~役員向けパワハラ防止研修で学ぶ重要なポイント~
パワハラ(パワーハラスメント)、パワハラ加害者(行為者)という言葉を聞かない日はありません。パワハラ(パワーハラスメント)という言葉は2001年に日本で作られた造語ですが、「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」正しい理解をしている人は世の中にどれくらいいるのでしょうか。さて、前回は、「管理職向けパワハラ防止研修で学ぶ重要なポイント」ついて一緒に学びました。今回は、「役員向けパワハラ防止研修で学ぶ重要なポイント」について見てまいりましょう。
【目次】
- パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の位置付け
- パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」とは
- パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を「労働者全員で受講するメリット・デメリット」
- パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を「各階層で受講するメリット・デメリット」
- 日本の社会で起きているパワハラ(パワーハラスメント)に起因する役員に関する問題点
- 役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修で学ぶ重要なポイント
- まとめ
1. パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の位置付け
■ パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の位置付け
職場で、パワハラ(パワーハラスメント)を防止するための対策として講じられているのが、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修です。2022年4月までに日本全国にある全ての事業主対してパワハラを防止するための対策を講じることが義務付けられましたので、今までパワハラ(パワーハラスメント)防止研修を実施していなかった組織でも、初めてパワハラ(パワーハラスメント)防止研修を実施しています。
ただし、以前のコラムでも書きましたが、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の実施は「義務」ではありません。あくまでも、パワハラ(パワーハラスメント)の防止対策の1つとして、取組むことが望ましいとされています。
パワハラ(パワーハラスメント)を防止するための対策として、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修以外では、「ポスターの掲示」、「社内システムでの啓蒙」、「パワハラに関する冊子の配布」、「パワハラに関する勉強会」等、さまざまな取組があります。このような対策を講ずれば必ずパワハラ(パワーハラスメント)が防げるか、というと必ずしもそうではないのですが、働く人がパワハラ(パワーハラスメント)に関する意識を高めるためには重要な取組となります。
パワハラ(パワーハラスメント)を防止するための対策として「ポスターの掲示」や「パワハラに関する冊子の配布」は、1回の対応で完了し、後は働く人たちにポスターや冊子を見るか、見ないか、を委ねることができますが、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を実施する場合は準備することが多くなります。
特に、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修で何を受講者へ伝えることがパワハラ(パワーハラスメント)を防止する上で重要か、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を実施する際の担当者の頭を悩ませます。また、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を受講する階層によっても学ぶことが異なることから、各階層に向けた望ましいプログラムについて慎重に検討することが必要になります。
では、次に、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」から見てまいりましょう。
2. パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」とは
■ パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」とは
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」とは、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を誰が受けるか、について決めることです。
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」にあたっては、大きく分けて次のようなグループの中で選定することができます。
- 労働者全員(全ての雇用関係含)
- 新入社員
- 一般職
- 管理職
- 役員
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の「受講者の選定」にあたっては、これらのグループに分けることができますが、労働者全員と各階層に分かれて実施するのはどちらがよいのでしょうか。
まず、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を組織で働く人全員が一堂に会して実施することのメリットとデメリットをみてみましょう。
3. パワハラ防止研修を「労働者全員で受講するメリット・デメリット」
■ パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を「労働者全員で受講するメリット・デメリット」
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を組織で働く人全員が一堂に会して受講するメリットは以下の通りです。
- 全ての労働者に同じ情報を伝えることができる。
- 選定する必要がないので楽である。
- 準備する資料が1種類なので手間が省ける。
- 労働者間での意識が統一される。
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を組織で働く人全員が一堂に会して受講するデメリットは以下の通りです。
- 自分事として受け止めることが難しい場合がある。
- 階層ごとに異なる課題への解決が難しい。
- 立場の弱い人たちが委縮してしまう。
- 話し合いがしずらい。
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を組織で働く人全員が一堂に会して受講するメリットとデメリットについてみてきましたが、全員で受講することを選択した場合は、受講者にとってのデメリットの方が多くなります。
一方、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を組織で働く人全員で受講する選択をした場合は、主催者側にとってのメリットが多くなることから、受講者にとっての学びを深めるためにはあまり望ましい選択ではありません。
では次に、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を各階層に分けて実施する場合のメリット・デメリットについてみていきましょう。
4. パワハラ防止研修を「各階層で受講するメリット・デメリット」
■ パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を「各階層で受講するメリット・デメリット」
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を各階層で受講するメリットは以下の通りです。
- 自分事として受け止めることができる。
- 階層ごとの課題を解決することができる。
- 階層に適した内容を構築することができる。
- 話し合いがしやすい。
- 同じ立場の人の意見を聴くことができる。
- チームワーク力が強まる。
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を階層ごとに実施することは、受講する人の学びを深めるメリットが多いことが分かります。
では、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を各階層で受講するデメリットについても見てみましょう。デメリットは以下の通りです。
- 各階層ごとに研修資料を準備する必要がある。
- 階層ごとの日程や会場の設定をする必要がある。
- 他の立場の人の意見を聴くことができない。
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を階層ごとに実施することは、主催者側へのデメリットはあるものの、受講者側がパワハラ(パワーハラスメント)について学ぶ上でのデメリットは多くはありません。
パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を労働者全員で受講する場合と階層ごとに実施する場合のメリット・デメリットについて学んできましたが、それぞれのケースでメリット・デメリットがあることが分かりました。
では、次に、日本の社会で起きているパワハラ(パワーハラスメント)に起因する問題点について学んでいきましょう。
5. 日本の社会で起きているパワハラに起因する役員に関する問題点
■ 日本の社会で起きているパワハラ(パワーハラスメント)に起因する役員に関する問題点
2022年4月までに日本で一人でも働く人を雇用している組織に対しパワハラ(パワーハラスメント)を防止するための対策を講ずることがパワハラ防止法で義務付けられました。そのため、各組織の状況に応じてパワハラ(パワーハラスメント)が起きないような何かしらの取り組みをする必要がありますが、パワハラ(パワーハラスメント)を起因として日本の社会で役員に関する問題が起きています。
それは、
- パワハラ(パワーハラスメント)を防止することは、最も重要な経営課題であることを役員が理解していない。
- パワハラ(パワーハラスメント)の防止を役員以外の従業員だけに課している。
ということです。では、それぞれの問題点について詳しくみてまいりましょう。
- パワハラ(パワーハラスメント)を防止することは、最も重要な経営課題であることを役員が理解していない。
- パワハラ(パワーハラスメント)を防止するために重要なことは、組織内でパワハラ(パワーハラスメント)が起きた時のリスクを経営層が理解していることです。残念なことに日本の組織では、経営層がパワハラ(パワーハラスメント)をしていることも多く、パワハラ(パワーハラスメント)に該当するような指導をすることで組織を動かそうとする傾向もあります。おそらく、経営層の中には、自分たちがパワハラ(パワーハラスメント)に該当するような指導を受けてきたことから、時代に適さない指導方法を指導と勘違いしている人もいます。経営層自らがパワハラ(パワーハラスメント)をした場合には、組織で何が起こるか想像してみなければ、ある日突然「不正」や「隠ぺい」等、組織の存続を危ぶむ原因になることが起こる可能性があります。
- 経営層の人は、パワハラ(パワーハラスメント)が組織内で起きた時のリスクを想像し、パワハラ(パワーハラスメント)は重要な経営課題であることを理解しなければなりません。今は、SNSの普及により、組織内でパワハラ(パワーハラスメント)の起きた時の対策を万全にしなければ、望ましくない情報が社会へ一気に拡散されてしまいます。このような事態が起きてからでは遅いことを経営層は常日頃から意識を高め、パワハラ(パワーハラスメント)が起きないように自ら先頭に立ちパワハラ(パワーハラスメント)が起きないような対策を講じていくことが求められます。
- パワハラ(パワーハラスメント)の防止を役員以外の従業員だけに課している。
- パワハラ(パワーハラスメント)防止研修の受講者の選定は各組織により異なりますが、多くの組織で経営層の参加はありません。先述したように、経営層がパワハラ(パワーハラスメント)を重要な経営課題であると理解し、先頭に立ちパワハラ(パワーハラスメント)防止のための対策を講じなければなりませんが、パワハラ(パワーハラスメント)を防止することを組織で働く人だけに課していることが多く見受けられます。
- パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を管理職に実施した場合によくあるのが、経営層が「オブザーバー」として参加することです。経営層は管理職の人たちがどのように受講しているのかをまるで他人事のように見ているだけで、経営層自らのパワハラ(パワーハラスメント)に関する意識を高めようという姿勢はありません。また、受講者からよく聞くのが「経営層がパワハラ(パワーハラスメント)をしている。経営層こそパワハラ(パワーハラスメント)防止研修を受講するべきだ」ということです。特にこのような声を聞く組織では、表面化しない潜在的なパワハラ(パワーハラスメント)が多くあり、いつパワハラ(パワーハラスメント)の問題が爆発してもおかしくありません。
- 経営層は、自らの行いが組織の文化を作り上げている、という意識を持つことが大切です。組織で働く人たちは経営層のことをよく観察しています。経営層がパワハラ(パワーハラスメント)をしても許されるのであれば、自分たちも許されるはずであるという望ましくない意識が醸成され、組織内でのパワハラ(パワーハラスメント)は半永久的に繰り返されることになります。このような負の連鎖が起こらないように、経営層自らがパワハラ(パワーハラスメント)を防止するための取り組みを積極的に行うことが重要です。
では、次に「役員けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修で学ぶ重要なポイント」について学んでいきましょう。
6. 役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修で学ぶ重要なポイント
■ 役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修で学ぶ重要なポイント
日本の社会でパワハラ(パワーハラスメント)の問題が増えていることと同時並行して、先述したような役員に関する問題が起きています。この問題を解決するためには、役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修で何を学ぶことができるかが重要になってきます。
役員の研修では、以前コラムでもお伝えした、「パワハラの定義」をしっかりと理解することは重要です。日常業務の中で、自分の言動がパワハラの定義に当てはまるか、当てはまらないかを意識することで、パワハラ(パワーハラスメント)に該当するような言動を抑制することができるようになります。
更に、これから述べることに関する学びを深めることで、組織内でのパワハラ(パワーハラスメント)に関する意識を高められるようになります。では、役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修でパワハラ定義以外に学ぶことについてみてまいりましょう。
- 法的リスク
- 経営リスク
- 経営層が組織に与える影響
- 自己分析
- 怒りのコントロール
- 正しい叱り方
- コミュニケーション
- 聴くスキル
役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修では、パワハラの定義の他にこのようなことを学びます。では、それぞれの内容について詳しくみてまいりましょう。
- 法的リスク
- パワハラ防止措置が、大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から義務化されました。パワハラ防止法を踏まえた正しい知識を身につけパワハラの法的リスクについて理解を深めます。パワハラ裁判は、被害者から加害者個人に対して訴える場合と、被害者から会社に対して請求する場合の二つがあります。また、職場環境配慮義務違反とは、雇用契約の中で会社はハラスメントがない職場環境をつくらなければならない義務に違反したという債務不履行の構成をとります。安全配慮義務違反とは、非常に過酷な叱責、過酷な状況に置かれた場合について、安全な職場環境でなかった安全の問題として捉えるなど様々なパワハラのリスクについて学びます。
- 経営リスク
- パワハラ(パワーハラスメント)が組織で起きた場合に起こりうる経営リスクについて学びます。パワハラ(パワーハラスメント)が起因となり起こる経営リスクには「訴訟」「採用」「評判」「信頼」「ビジネスチャンスの低下」「誹謗中傷」「SNSでの拡散」など数えればきりがありません。このような経営リスクが起こらないような対策を事前に立てることが重要になります。
- 経営層が組織に与える影響
- 経営層は、組織で働く人が良い影響を受けるための鏡にならなくてはなりません。自らの立場が組織で働く人たちにどのような影響を与えるのかについて、ケーススタディを通じ学んでいきます。また、経営者が望ましい影響を受けた経営者について、自分がその経営者のような存在になるために必要なことは何かについて考え、自らも尊敬されるような経営者になるための対策を講じていきます。
- 自己分析
- 自分がどのような人か知ることが、相手を知る前に必要なことです。人は、自分以外の人を分析することには慣れていますが、自分とはどのような人であるかを分析することは多くありません。相手を知る前に自分を知ることにより、相手との良好な人間関係に必要なこと、必要ではないこと、不足していること、加減したほうが良い事などが理解できるようになります。
- 怒りのコントロール
- 感情は、脳内の扁桃体というところから生まれると言われています。扁桃体は外の環境から信号を受け取って、それが自分にとって危険か安全か意味づけをし、危険なら不快、安全なら快というような感情を引き起こします。基本感情などと呼ばれているのは、怒り、恐怖、驚き、悲しみ、幸福などですが、怒りや恐怖の感情がパワハラの原因となっていることも多くあります。怒りが発生するメカニズムを知ることにより自身で感情のコントロールができるようになることを目指します。
- 正しい叱り方
- 正しく叱ることはパワハラではありません。叱ることと怒ることは違います。怒るとは、自分の感情を一方的に相手にぶつけることですが、叱るとは相手の成長を促し状況を改善するための指導です。パワハラになることを恐れ叱れない人が増えていると言われています。正しい叱り方を身につけることは、職場の環境や相手の状況を改善するための一歩です。
- コミュニケーション
- 多種多様な人材が集う社会の中で自分本位なコミュニケーションを続けることは人間関係の中で問題を引き起こすリスクが非常に大きくなります。相手との信頼関係を築き円滑なコミュニケーションを行うためには、相手によりコミュニケーションの方法を変えることが重要です。そのためには、相手を知り相手を受け入れることが求められますが、その前に大切なことは先ず自分を知り自分を受け入れることです。自分の特徴を知ることで相手の特徴を正しく捉えることができるようになります。仕事の基本となる正しいコミュニケーションについて学ぶことで良好な人間関係も構築することができます。
- 聴くスキル
- 聴くことが苦手な人が増えていると言われています。自分の言いたいことだけ言って終わりにする人は相手との良好な人間関係を築くことが難しくなります。望ましいコミュニケーションには聴くスキルが必須となります。米国の臨床心理学者カール・ロジャーズが提唱したカウンセリングやコーチングにおけるコミュニケーション技法のひとつで、相手の話を聴くときのあり方、姿勢、態度、聴き方をアクティブリスニングと言います。相手の発する言葉だけでなく、その背後にある感情や気持ちまで積極的につかもうとする聴き方を日常の業務でも取り入れられるようになることで職場での良好な人間関係の構築に役立てます。
役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修では、これらのことを学んだり、各組織の課題に即した内容を学ぶことにより、受講者も自分事として受け止めやすくなります。
7. まとめ
今回のコラムでは、「役員向けパワハラ(パワーハラスメント)防止研修で学ぶ重要なポイント」について学んできました。パワハラ(パワーハラスメント)防止研修を実施することは義務ではなく、あくまでも努力義務ではあるものの、組織でパワハラ(パワーハラスメント)を防止するための対策としては重要な位置づけであることに変わりはありません。
ただ、目的がはっきりしないまま、ただなんとなくパワハラ(パワーハラスメント)防止研修を毎年実施する、という感覚であれば、組織におけるパワハラ(パワーハラスメント)を防止する観点からの有効性は低くなります。働く人々の時間や組織のコストを無駄なものにしないためにも、組織の現状を把握し、分析し、そして何を学ぶことでパワハラ(パワーハラスメント)の発生を防ぐことができるか考えた上で、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修で学ぶ内容を決めることが大切です。
最後に
パワーハラスメント(パワハラ)対策でお困りの企業様は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会までご連絡ください。パワーハラスメント(パワハラ)加害者(行為者)更生支援研修、パワーハラスメント(パワハラ)防止研修をはじめ、パワーハラスメント(パワハラ)を防止するための各種サービスをご提供しております。日本全国の皆さまからのご連絡をお待ちしております。
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