パワハラ防止研修で学ぶ判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~

Column – 52
パワハラ防止研修お役立ちマニュアル
パワハラ防止研修で学ぶ判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~

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パワハラ(パワーハラスメント)、パワハラ加害者(行為者)という言葉を聞かない日はありません。パワハラ(パワーハラスメント)という言葉は2001年に日本で作られた造語ですが、「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について正しい理解をしている人は多くはありません。それは、パワハラ(パワーハラスメント)にはグレーゾーン(確定診断ができない状態)のケースが多く存在しているからです。このコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修で「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について理解を深めることができるパワハラ(パワーハラスメント)裁判事例について解説していきます。

【目次】

  1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型
  2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること
  3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景
  4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動
  5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯
  6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠
  7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任
  8. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~
  9. まとめ

 1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型は、受け手(被害者)が、行為者(加害者)や使用者(事業主)に対して慰謝料等の損害賠償を請求するケースと、使用者がパワハラ(パワーハラスメント)行為者(加害者)に対して懲戒等の処分をしたことに対して、行為者(加害者)が、処分が重すぎるとして処分の無効確認等を求めるケース(処分を争う行為者)による請求との2つに大きく分けることができます。  


当コラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)について、「損害賠償請求(受け手による請求)」と「処分を争う行為者(加害者)による請求」の裁判事例について解説していきます。  



 2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)の置かれている状況がパワハラ(パワーハラスメント)の判断に影響する場合があります。例えば、一般的な社員への厳しい指導よりも新卒社員のように社会人経験に乏しく対応力に限りのある者に対する厳しい指導の方がパワハラ(パワーハラスメント)と判断されやすい傾向にあります。  


また、パワハラ(パワーハラスメント)は、役職的に上の立場の者が下の立場の者を見下して、パワハラ(パワーハラスメント)に及んだと思われるケースが多くあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)事案が判断される上で受けて(被害者)の置かれている状況が大きく影響することを理解しながら判例を読み解くことも大切です。  


   

 3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景

パワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)側に、行為者(加害者)から厳しい言動を浴びせられる一因(たとえば、何度指導してもミスが繰り返される等)となったと思われる言動がみられることも多くあります。  


また、受け手(被害者)が精神的な問題を抱えていて、それに上司が対応しきれずに受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)を受けたと感じてしまったと思われる事案もあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)には、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景があり、これを無視して行為者(加害者)を処分するだけでは、事態の根本的な解決にならないこともあります。  


裁判だけではなく、社内でパワハラ(パワーハラスメント)が起きた時は、事実確認だけではなく、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景も丁寧にヒアリングする必要がここにあります。  



 4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動

どのような言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか分からないという人は多くいると思います。裁判例が不法行為にあたると認定した行為者(加害者)の言動(違法といえるパワハラ)について参考にすると、職場で起きている言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか、しないかの判断材料に用いることができます。  


職場のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口における事実確認の時も受け手(被害者)からは、裁判例などにみられるように「具体的」に聴き取りをすることが重要です。ただ、「人格を否定されました」だけでは、十分な証拠にはなりえず信用性を肯定することも難しくなります。パワハラ(パワーハラスメント)には、受け手(被害者)の「過剰反応」ともみられる事案があり、裁判例でも、受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)と主張した言動は不法行為には当たらないと判断しているケースがありますので参考にしてください。



 5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯

裁判に至る背景は裁判により異なりますが、管理職や事実調査の担当者らの対応ミスによって、訴訟に発展したと思われるケースがあります。例えば、懇親会の席での管理職から部下へのパワハラ(パワーハラスメント)を社員間の個人的な問題と判断した会社が十分な被害者対応をしなかったために、被害感情が悪化した被害者が退職後に管理職と会社を被告として訴訟提起した事案があります。また、事実確認担当者が被害者に不用意な発言をしたことで被害感情が悪化した事案などもあります。  


これとは対象的に、裁判には至ってはいるが、受け手(被害者)からの通報・相談をきっかけとして使用者が事実確認を適切に行い、行為者(加害者)を処分しているケースもあります。これらの使用者の対応は、パワハラ(パワーハラスメント)事案が発生した場合の事実確認や被害者・行為者(加害者)に対する実際の対応例として参考にしてください。  



 6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠

パワハラ(パワーハラスメント)の訴訟は、客観的証拠が少ないため、下級審と上級審とでパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定するかの判断が分かれるケースも多くみられます。組織で事実調査をしたところ、受け手(被害者)が主張する行為者(加害者)の言動があったと認めてよいか迷うこともあります。  


裁判所が、どのような証拠に基づいてパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定したのか、また、被害者の供述の信用性をどのようにして判断したのかがわかる部分について、裁判例を参考に組織の相談対応としての事実確認をする際の参考にしてください。  



 7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任


■ パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任

パワハラ(パワーハラスメント)行為をした者は、民法上、不法行為責任を負う(民法709条)可能性があり、その場合は、受け手(被害者)の損害に対して賠償する責任が発生します。  


一方、会社も、民事上の損害賠償責任が発生します。その構成に「不法行為責任」と「債務不履行責任」の二つが考えられます。  


不法行為責任においては、使用者責任(民法715条)が問題になることが多いといえます。特に、パワハラ(パワーハラスメント)の場合は、業務指導の一環としてなされた行為が問題となることが多いと想定されるため、「事業の執行につき」の要件を満たすことが多くなります。その場合、使用者は、損害賠償責任を負い、その損害賠償の範囲は、不法行為責任を負うパワハラ行為者(加害者)本人と同じものです。   


もう一つの債務不履行責任とは、企業に配慮義務の違反があるとして、その債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負わせるという考え方になります。安全配慮義務(労働契約法5条)を、パワハラ事案に即して、より具体化した配慮義務ともいえます。同条をさらに進めて、人格的利益(良好な職場環境で働くという利益)が不当に侵害されないよう配慮する義務があるとする考え方です。 



 8. パワハラ裁判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~


■ パワハラ裁判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~

  • 判例のポイント
    • 大学病院におけるパワハラの事案(精神的な攻撃・過少な要求・人間関係からの切り離し)

  • 行為者(加害者): D(耳鼻咽喉科教授)

  • 受け手(被害者): V(医師。耳鼻咽喉科の医局員である助手)

  • 背景等
    • Vは当病院に赴任するまで15年以上、勤務医師等として働き、複数の病院で耳鼻咽喉科部長を勤めた。  

    • Vは、当大学病院の耳鼻咽喉科の教授選において、同科の医局からP助教授が推薦されていたにも関わらず、上司であるA前教授に相談することなく独自に立候補したため、A前教授が激怒し、Vを医学部の学生に対する教育担当と当病院における全ての臨床担当から外し、関連病院への外部派遣による診療担当を残した。  

    • 教授選ではP助教授が破れてDが耳鼻咽喉科教授に選出され、平成6年にDが教授に就任した。 


  • D教授による過少な要求、人間関係からの切り離し
    1. Vの処遇を継続し、平成6年から10年以上にわたって当病院の臨床担当をさせなかった。

    2. 同様に、10年以上にわたって教育を担当させなかった。

    3. Vは、自主的な研究活動は続け、外部派遣を引き続き担当していたところ、平成8年ころにA病院からVの診療態度等についてクレームが寄せられている旨を伝えてA病院への派遣担当から外した(事実関係を確認したり、クレームの具体的内容を説明したりすることはなかった)。平成11年にはB病院への派遣担当からも外し、全ての外部派遣担当から外した(Vの弁解を聴取したり、上記クレームの原因となるような言動ないし態度を改めるように指導することはなかった)。


  • その後
    • Vは、当大学病院において、自主的な研究活動以外に担当する職務を有しないことになり、D教授らは、Vに対し、当大学病院を離れて他の病院等に転出することを勧め、転出先の病院を具体的に紹介するなどしたが、Vはこれに応じなかった。

    • Vは、大学の理事長が交代した際などに、D教授らに対し、何度も臨床担当に復帰させてほしい旨要望したが、D教授らはこれを拒否し続けた。その主な理由は、Vが大学病院におけるすべての臨床担当から外された後の平成10年ころ、D教授に対し、他大学の教授選に立候補するためにも臨床を担当させてほしい旨述べたことがあったことから、そのような動機によって臨床に復帰させるのは相当ではないというものであった。

    • Vは平成16年に大学の理事長が交代した際に、改めて臨床担当への復帰を要望し、一部復帰した。


  • Vの提訴
    • Vは、D教授から違法な差別的待遇を受けたと主張して、D教授に対しては不法行為に基づき、大学と大学病院に対しては使用者責任に基づき、連帯して1500万円等の支払を求めて提訴した。


  • 判決の概要
    • 大阪高裁は、D教授の行為の内➀と➂について不法行為責任を肯定し、D教授、大学および大学病院に対し、慰謝料200万円等の損害賠償を命じた(連帯責任)。


  • 判決の理由
    1. (大学らは、Vは大学病院に勤務する医師としての資質に欠けていたことから、すべての臨床担当から外すことにしたものであり、人事権の行使として著しく不合理であるとはいえない旨主張した)大学らは、Vに対する具体的な改善指導を行わず、期限の定めのないまま、Vをいわば医師の生命ともいうべきすべての臨床担当から外し、その機会を全く与えない状態で雇用を継続したというものであって、およそ正当な雇用形態ということはできず、差別的な意図に基づく処遇であったものと断定せざるを得ない。

    2. 大学病院に勤務しているとはいえ、教育に従事することが必要不可欠であるとまではいえない上、教育という性質を考えると、学生に対する教育担当者の適正判断については大学の理念および方針に基づく独自かつ広範な裁量に委ねられるものというべきであるから、教育担当から外されたことが著しく不合理な処遇であったということはできない。

    3. 外部派遣先の病院からクレームは3件程度にとどまることからすると、大学病院におけるすべての臨床担当から外さなければならない程度の事情があったとまでは認めるに足りない。仮に、Vについて深刻な資質上の問題点が存在したというのであれば、大学らとしては、前述のような指摘と指導をすべきであって、そのような指摘・指導をすることなく、すべての外部派遣の担当から外したというのは、職員に対する人事権の行使として合理的な裁量の範囲を逸脱したものというほかない。



 9. まとめ

今回のコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)の裁判について詳しく解説してまいりました。組織のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口に寄せられた相談の初動対応を間違えると被害感情が悪化して裁判に至るケースも多くあります。パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景は事案により異なりますが、受け手(被害者)の心情に配慮しながら、パワハラ裁判事例を参考にしつつ、慎重に対応をすることが求められます。


近時は、パワハラ(パワーハラスメント)の事案が増えており、最悪のケースになると命を失う人も出てきます。パワハラ(パワーハラスメント)は企業と個人の存立に多大なる影響を及ぼすリスクの高い経営課題であると認識し、パワハラ裁判に至ることがないよう企業も従業員も尽力することが重要です。  



 最後に

パワーハラスメント(パワハラ)対策でお困りの企業様は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会までご連絡ください。パワーハラスメント(パワハラ)加害者(行為者)更生支援研修、パワーハラスメント(パワハラ)防止研修をはじめ、パワーハラスメント(パワハラ)を防止するための各種サービスをご提供しております。日本全国の皆さまからのご連絡をお待ちしております。


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