パワハラ防止研修で学ぶ判例~被害者に問題も東京都国家賠償請求~

Column – 71
パワハラ防止研修お役立ちマニュアル
パワハラ防止研修で学ぶ判例~被害者に問題も東京都国家賠償請求~

Column – 71

パワハラ(パワーハラスメント)、パワハラ加害者(行為者)という言葉を聞かない日はありません。パワハラ(パワーハラスメント)という言葉は2001年に日本で作られた造語ですが、「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について正しい理解をしている人は多くはありません。それは、パワハラ(パワーハラスメント)にはグレーゾーン(確定診断ができない状態)のケースが多く存在しているからです。このコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修で「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について理解を深めることができるパワハラ(パワーハラスメント)裁判事例について解説していきます。

【目次】

  1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型
  2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること
  3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景
  4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動
  5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯
  6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠
  7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任
  8. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例~被害者に問題も東京都国家賠償請求~
  9. まとめ

 1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型は、受け手(被害者)が、行為者(加害者)や使用者(事業主)に対して慰謝料等の損害賠償を請求するケースと、使用者がパワハラ(パワーハラスメント)行為者(加害者)に対して懲戒等の処分をしたことに対して、行為者(加害者)が、処分が重すぎるとして処分の無効確認等を求めるケース(処分を争う行為者)による請求との2つに大きく分けることができます。  


当コラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)について、「損害賠償請求(受け手による請求)」と「処分を争う行為者(加害者)による請求」の裁判事例について解説していきます。  



 2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)の置かれている状況がパワハラ(パワーハラスメント)の判断に影響する場合があります。例えば、一般的な社員への厳しい指導よりも新卒社員のように社会人経験に乏しく対応力に限りのある者に対する厳しい指導の方がパワハラ(パワーハラスメント)と判断されやすい傾向にあります。  


また、パワハラ(パワーハラスメント)は、役職的に上の立場の者が下の立場の者を見下して、パワハラ(パワーハラスメント)に及んだと思われるケースが多くあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)事案が判断される上で受けて(被害者)の置かれている状況が大きく影響することを理解しながら判例を読み解くことも大切です。  


   

 3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景

パワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)側に、行為者(加害者)から厳しい言動を浴びせられる一因(たとえば、何度指導してもミスが繰り返される等)となったと思われる言動がみられることも多くあります。  


また、受け手(被害者)が精神的な問題を抱えていて、それに上司が対応しきれずに受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)を受けたと感じてしまったと思われる事案もあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)には、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景があり、これを無視して行為者(加害者)を処分するだけでは、事態の根本的な解決にならないこともあります。  


裁判だけではなく、社内でパワハラ(パワーハラスメント)が起きた時は、事実確認だけではなく、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景も丁寧にヒアリングする必要がここにあります。  



 4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動

どのような言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか分からないという人は多くいると思います。裁判例が不法行為にあたると認定した行為者(加害者)の言動(違法といえるパワハラ)について参考にすると、職場で起きている言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか、しないかの判断材料に用いることができます。  


職場のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口における事実確認の時も受け手(被害者)からは、裁判例などにみられるように「具体的」に聴き取りをすることが重要です。ただ、「人格を否定されました」だけでは、十分な証拠にはなりえず信用性を肯定することも難しくなります。パワハラ(パワーハラスメント)には、受け手(被害者)の「過剰反応」ともみられる事案があり、裁判例でも、受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)と主張した言動は不法行為には当たらないと判断しているケースがありますので参考にしてください。



 5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯

裁判に至る背景は裁判により異なりますが、管理職や事実調査の担当者らの対応ミスによって、訴訟に発展したと思われるケースがあります。例えば、懇親会の席での管理職から部下へのパワハラ(パワーハラスメント)を社員間の個人的な問題と判断した会社が十分な被害者対応をしなかったために、被害感情が悪化した被害者が退職後に管理職と会社を被告として訴訟提起した事案があります。また、事実確認担当者が被害者に不用意な発言をしたことで被害感情が悪化した事案などもあります。  


これとは対象的に、裁判には至ってはいるが、受け手(被害者)からの通報・相談をきっかけとして使用者が事実確認を適切に行い、行為者(加害者)を処分しているケースもあります。これらの使用者の対応は、パワハラ(パワーハラスメント)事案が発生した場合の事実確認や被害者・行為者(加害者)に対する実際の対応例として参考にしてください。  



 6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠

パワハラ(パワーハラスメント)の訴訟は、客観的証拠が少ないため、下級審と上級審とでパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定するかの判断が分かれるケースも多くみられます。組織で事実調査をしたところ、受け手(被害者)が主張する行為者(加害者)の言動があったと認めてよいか迷うこともあります。  


裁判所が、どのような証拠に基づいてパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定したのか、また、被害者の供述の信用性をどのようにして判断したのかがわかる部分について、裁判例を参考に組織の相談対応としての事実確認をする際の参考にしてください。  



 7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任


■ パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任

パワハラ(パワーハラスメント)行為をした者は、民法上、不法行為責任を負う(民法709条)可能性があり、その場合は、受け手(被害者)の損害に対して賠償する責任が発生します。  


一方、会社も、民事上の損害賠償責任が発生します。その構成に「不法行為責任」と「債務不履行責任」の二つが考えられます。  


不法行為責任においては、使用者責任(民法715条)が問題になることが多いといえます。特に、パワハラ(パワーハラスメント)の場合は、業務指導の一環としてなされた行為が問題となることが多いと想定されるため、「事業の執行につき」の要件を満たすことが多くなります。その場合、使用者は、損害賠償責任を負い、その損害賠償の範囲は、不法行為責任を負うパワハラ行為者(加害者)本人と同じものです。   


もう一つの債務不履行責任とは、企業に配慮義務の違反があるとして、その債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負わせるという考え方になります。安全配慮義務(労働契約法5条)を、パワハラ事案に即して、より具体化した配慮義務ともいえます。同条をさらに進めて、人格的利益(良好な職場環境で働くという利益)が不当に侵害されないよう配慮する義務があるとする考え方です。 



 8. パワハラ裁判例~被害者に問題も東京都国家賠償請求~


■ パワハラ裁判例~被害者に問題も東京都国家賠償請求~

  • 判例のポイント
    • 同僚や幹部ら署員が受け手を退職するように仕向けて行われた、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、個の侵害といった複数の要素を含むパワハラ事案  

    • 受け手にも多くの問題行動がみられた(勤務態度の不良に改善がみられず不満を抱く同僚が多かった、法規上通用しない言い分を持ち出してこれに固執して指示を拒否した、行為者による有形力の行使を計画的に誘う等)。  

    • 使用者が東京都のため、国家賠償請求事件となっている。  


  • 行為者(加害者): D1(係長)、D2(課長)、D3(課長代理)、D4(副署長)、D5・D6(主任)、D7・D8(主事)、D9(主任)、D10(課長)、

  • 受け手(被害者): V(水上署舟艇課の海技職員で役職は主事。警備艇常務で、司法警備員・司法巡査としての権限は有しない)

  • 勤務先: 警視庁東京水上警察署


  • 背景等
    • Vは、水上警察署の海技職員として採用されたが、着任後間もなく、主要な任務である警備艇の操作に消極的な姿勢を示すなどしたことから、上司の指導を受けるなどしたものの、その勤務態度にはかばかしい改善は見られなかった。また、活動記録表への落書きの内容(「早く次の職を見つけて辞めた~い。(もう警察、都交通局はヤダー)」、「操船は可能な限りしたくない」、「隅田川PBは、ヤダ・ヤダ・ヤダ・ヤダ・ヤダ」)等から、Vと二人一組での警備艇常務を嫌がる者が出たほか、Vが上司の指示命令に従わず、職員に必要な「船乗り」としての自覚や誇りに欠けるところがあるのではないかとして、Vの勤務態度に不満を抱く者も現れ、危険と隣り合わせの勤務である警備艇乗務に最も必要とされる同僚らとの信頼関係を構築することができないまま推移していた。  

    • Vは、採用から約1年2か月経過後(平成12年6月)から3年半余にわたり、腰椎椎間板ヘルニアを理由とする病気休暇や分限休職処分により職務から離脱していた(平成12年12月から分限休職処分となり、平成15年12月22日の経過で最長の3年間の分限休職期間が満了し分限免職処分となる予定であった)。  

    • 平成15年11月上旬に、治療により出勤可能という診断書が出され、分限免職処分となる可能性は乏しくなり、休職期間の満了によりVが復職する可能性が大きくなった。  


  • 同僚・上司による言動
    1. (復職前:平成15年9月)椎間板ヘルニアが完治した旨の診断書を出せないという主治医の意見を前提とするとVが分限免職処分となるとの認識のもと、D2課長およびD3課長代理が、辞職願の作成に応じないVに対し、辞職願を作成することを求める発言をした(Vの再就職のために、分限免職の履歴が残らないようにするとの配慮に基づく)。Vは、当初は辞職願を提出する意向を示したが、主治医に診断の変更を求めるか、あるいは指定医でない医師に改めて診断を求めたいという、およそ例規上通用しない言い分を持ち出してこれに固執し、約1時間以上にわたるやりとりの後、辞職願を作成しない態度に転じた。このため辞職願を作成しない理由を尋ねても、Vは、答えないか、医師の診断を再度受けたい旨の主張に固執し、その挙句、理由はないと答えた。このため、D2課長が、堪忍袋の緒が切れてVのネクタイを掴んで引っ張った。ただし、直ちに手を離し、Vはそのまま椅子に座り込んだ。

    2. D4副署長が、Vに対し、現状では分限免職処分の手続きが進むこと、そのため任意退職を勧めていることを説明するなどした。

    3. D2課長代理が、試み出勤の準備のために登庁したVに対し、誓約書の作成を求めたところ、Vが文言を変更したいと固執し続けたため(Vが希望する文言とする合理的理由や必要性はなかった)、Vに対し、署長の決裁を受けた文書を自分の判断で変更できないと説明して誓約書の作成を求めた。しかし、Vは拒否した。その翌日に、署長から「試み出勤はしたいが誓約書は書きたくない」との文書の作成を命じられたD2課長が、Vに対し、その趣旨の文書の作成を求めたのに対し、Vが態度を明確にしないまま、無関係な事柄について延々と話を続けた。午前8時20分から午後2時までこう着状態が続き、Vが誓約書作成の姿勢を見せては再びはぐらかしたため、立腹したD2課長が、Vの交際相手の勤務先に電話をし、電話があったことの伝言を依頼した。

    4. (④~⑨は試み出勤中)A4の中央にVの顔写真を印刷し、その上に「欠格者」、その下に赤字で「この者とは一緒に勤務したくありません!」、黒字で「A課一同」とそれぞれ印字されたポスターが、A課執務室の出入口正面の壁など複数の個所に掲示された。

    5. D2課長が、Vがシンナー等有機溶剤に対する接触皮膚炎やアナフィラキシーショックを起こす可能性が高い体質であることを知りながら、部下にシンナーを持ってこさせた上、これをVに示して「いい臭いすんな、ほら、この野郎、来い」などと言った。

    6. Vのロッカーの中にシンナーが撤かれ、更衣室内全体に強いシンナー臭が漂っており、着替えも困難であることを、VがD1係長とD2課長に訴えたにもかかわらず、両名は特段の対応をしなかった。

    7. D2課長が、Vに対し、辞職願を出さなければ、Vをひぼうする記事が週刊誌に掲載される見込みであることを告知し、記事が掲載されたらこれに付せんを付けてVの父親や交際している女性等に送る旨を述べるなどした。

    8. D2課長が、部下に「シンナー持ってこい。」などと言って液体の入った容器を持ってこさせ、Vに「お前に掛けてやるよ」「嗅いでみろよ」と言った上、Vの目の前で内部の液体を数回撒布するなどした。Vは、D2課長が「アセトン」と書かれた容器を右手に持って振っている写真を撮影し、D4副所長のところに赴いて「課長が部屋にアセトン撒きました」「あんなの劇薬物じゃないですか。」「狂ってますよ、うちの課長」などと発言し、庁舎を出て、アセトンをかけられたと119番通報した(Vは一連の遣り取りを録音していた)。

    9. Vが、D2課長に対して、ポスターの件等について尋ねたが、D2課長は「知らないよ。」等と答えて部屋を立ち去った。するとVが机を叩くなどし、D3課長代理から「何叩いてんだよ。」と言われると「見てわからないですか。」と答えた。その後、D3課長代理が会議に出席しよとして部屋を出ると、Vが「代理しかいないんですよ。お願いします」などと言って付いてきたため、D3課長代理が、「座れよ」、「行け、早く」などと言って付いてくるのをやめさせようとしたが、Vが「お願いします。」などと言って付いてきたため、D3課長代理は、Vの左上腕部をつねり、全治2、3日を要する軽度の左上腕部表皮剝離の傷害を負わせた。

    10. (Vが復職した日)D4副署長が、用意した内容の誓約書の作成を求めたところ、Vが「警察職員としての仕事が出来ないような事があったり、ヘルニアで再び職場の皆さんに迷惑かけるような事が発生した場合には、職を辞して責任を取るつもりであります。」の部分は書けないなどと言って拒否し続けたため、「じゃあ、辞めて帰ればいいなじゃいか。懲戒免でもう、退職金も何もなしで」、「おん出すぞこっから、全署員使って」などと言った。それでもVは用意した内容の誓約書作成に応じず、Vが考える内容の誓約書を作成し、D4副署長はこれを受領した。

    11. Vが警備艇に乗船する際、激しい雨の日でも船内には入れなかった。また、冬場のVの泊まり勤務の際、Vが使用できる暖房器具がないため、Vが、繰り返し灯油を持ってきてほしいなどの旨をD1係長に述べたにもかかわらず、D1係長は「死にやいいじゃない」などと発言し、灯油を手配することを拒絶するなどした。また、D2課長が「辞めりゃいいじゃないか」などと述べた。

    12. D6主任が、Vが乗船する警備艇の航行中に、同艇の拡声器を用いて「この船には馬鹿が乗っています」などと発言した。D5主任が、別の同様の状況下で「Vの税金泥棒、辞めちゃえよ」などと発言した。D9主任が、別の日時に、警備艇を接岸させる際に同艇の拡声器を用いて「アー、アー、アー、本日は青天なり、本日は青天なり。税金泥棒、V税金泥棒、恥を知れ」と発言した。D6主任が、別の日時に、拡声器を用いて「税金泥棒」などと2回の機会にわたり発言した。

    13. D6主任が、更衣室や訓練の一環であるジョギングの際に、Vに向かって、幾度か唾を吐きかけた。

    14. Vが、D10課長に対し執務環境の改善を訴えていると、D3課長代理は、Vに対し、Vは職場全員から嫌悪されている等と述べて辞職を迫り、Vが更に執務環境の改善を訴えると、火の付いた煙草をVの制服の胸元めがけて投げた。

    15. D5主任が、Vと警備艇に乗船した際に、速力を上げて運航中の同艇を急転蛇させたため、Vがデッキ上に仰向けに転倒して後頭部を打撲し、左上肢肘部に挫創を負った。また、D10課長が、これに関する公務災害に係る書類作成につき、Vに書き直しを指示した。

    16. D3課長代理が、Vの足に向けていすを押し出してVの足に当て、Vの襟首を掴んで前に出るなどした(Vは、あらかじめD3課長代理に向けてビデオ撮影機材をセットして撮影を開始した上で、「くるんじゃねぇって言ってんだよ。」等と言って椅子を手に取るD3代理に向かって進み寄ったり、離れるように言うD3代理に発言を続ける等していた)。

    17. VがD10課長と面談した際に持参した診断書が、当初通院していた病院とは別の病院の診断書であり、他覚症状の記載もないものであったため、D10課長が転院の経緯を尋ねても、Vは質問をはぐらかすばかりで転院の経緯を説明しようとしなかった。そこで、D10課長が、当初の診断書では全治1か月の診断となっているのに3か月たっても治らないことを指摘して、「仮病じゃねぇのか」と言った。これに対し、Vは、自分がD3課長代理らから嫌われていることやY8主事らから警備艇拡声器で「税金泥棒」などと言われたことを繰り返しD10課長に訴えだした。D10課長は、着任前の出来事のためVの訴える事実を承知していなかったことから、「お前みたいな税金泥棒が居ることを、本当の事を言っちゃ駄目なのか」などと答えた。また、D10課長は、別の機会に、D3課長代理の⑯の行為にについてVが話した際に、「俺に言わせりゃあんなの暴力じゃないよ」などと述べた。


  • Vの提訴
    • Vは、DらがVに退職を強要する意図で日常的に暴行や脅迫を含む嫌がらせ等をしたと主張し、Dら個人の損害賠償請求(民法709条)と東京都の国家賠償法1条1項または使用者責任に基づく損害賠償請求をして、合計約1700万円の支払いを求めて提訴した。  


  • 判決の概要
    • 東京地裁は①~⑰までを全体として不法行為を旺盛するとして約300万円の損害賠償を命じていたが、東京高裁は④⑤⑥⑦⑪⑫⑬⑭と⑮のD3課長代理の言動についてのみ不法行為責任を肯定して、都に対し、国賠法1条1項に基づく賠償責任として、165万円(慰謝料150万円+弁護士費用15万円)等の支払いを命じた(国賠事案であるため、Dらは責任を負担しない)。  


  • 判決の理由
    1. は、辞職願を作成することを求める発言については、Vが辞職願の作成に応じないことに対し、Vにとって分限免職処分より辞職願を提出する方が有利であるとの趣旨で行われたものであり、違法とはいえない。D2課長がVのネクタイを掴んで引っ張った行為は、D2課長が行為に至った経緯を全体として考察すると、偶発的に生じた事実であり、その態様、有形力の程度およびその結果に照らしてこれを評価すると、不法行為とはいえない。

    2. は、Vにとって分限免職処分より辞職願を提出する方が有利であるとの趣旨で行われたものであることが明らかであって、不法行為とはいえない。

    3. は、D2課長がVに対し誓約書の作成を強要したとみる余地はなく、それ以外の言動も不法行為とはいえない。

    4. は、ポスターの掲示は、その記載内容および掲示の態様から、客観的にみて、Vの名誉を毀損し、Vを侮辱するものであることは明白であって、本件ポスターの掲示は、試み出勤を経て復職を希望するVに対し、心理的に追い詰めて圧力をかけ、辞職せざるを得ないように仕向けて放逐する目的で、Vの名誉を毀損し、Vを侮辱するために行われたことは明らかであるから、不法行為が成立する。

    5. は、シンナーを用いた嫌がらせを行うことを示して辞職を強要したものであって、不法行為が成立する。

    6. は、庁舎の管理権者およびこれを補助する幹部職員においては、Vのロッカーに撤布されたシンナーを除去して、Vが残留するシンナーのガスや臭気による健康被害を受けないように配慮して執務環境を良好に保つべき義務を負うところ、④⑤をあわせると、Vが辞職するように仕向けるために、執務環境が作為的に悪化されたままにしてシンナーを除去すべき義務を故意に怠ったものと推認することができ、不法行為が成立する。

    7. は、Vが辞職するように仕向ける意図で、Vの名誉に対し害悪を加えることを告知したものであって、これは脅迫に該当し、不法行為が成立する。

    8. は、化学消防車とともに臨場した救急隊員が消防法上の危険物であるアセトンを除去する措置を講じた形跡がなく、アセトン撤布の事実を疑っていること等から、Vの主張は前提となる事実を欠き、不法行為はない。

    9. は、つねる行為に至る経緯および行為の結果(全治2、3日を要する軽度の左上腕部表皮剝離)に照らし、これをもって不法行為ということはできない。

    10. は、結局Vは自己の考えるとおりの誓約書を作成し、D4副署長はそれを受領しているのであるから、D4副署長の言動は不法行為とはいえない。

    11. は、Vが置かれた状況や、署におけるVに対する退職するように仕向ける行為等の具体的事実を併せ考慮すると、組織の計画的、統一的な意思により、Vの執務環境をわざと劣悪にすることによって退職するように仕向けたものと推認することができ、不法行為が成立する。

    12. は、署におけるVに対する退職するように仕向ける行為等の具体的事実を併せ考慮すると、D6主任、D5主任およびD9主任が、退職するように仕向ける目的で、本来はそのような目的で使用してはならない拡声器を不正に用いてVの名誉を毀損する行為をしたものというべきであって、不法行為が成立する。

    13. は、署におけるVに対する退職するように仕向ける行為等の具体的事実を併せ考慮すると、D6主任は、退職するように仕向ける目的で、Vに対する嫌悪感を示してVの人としての尊厳を否定してVを侮辱する態度を唾を吐きかけるという下劣な行為で示したものというべきであって、不法行為が成立する。

    14. は、署におけるVに対する退職するように仕向ける行為等の具体的事実を併せ考慮すると、D3課長代理は、退職するように仕向ける目的で、Vに対する嫌悪感を示してVを侮辱したものというべきであって、不法行為が成立する。

    15. は、署におけるVに対する退職するように仕向ける行為等の具体的事実を併せ考慮すると、D5主任は、退職するように仕向ける目的で、Vが乗船している警備艇を急転蛇させてVを転倒させてVに傷害を負わせたものと推認することができ、不法行為が成立する。ただし、D10課長の書き直し指示については、不法行為と認めることはできない。

    16. は、Vは、D3課長代理による有形力の行使を映像として記録する目的でD3代理が有形力を行使するように仕組んだ上、有形力の行使を誘発した計画的なものと認められ、D3課長代理がVに行った行為の程度に照らし、不法行為は成立しない。

    17. の、「仮病じゃねえのか」発言は、VがD10課長の質問をはぐらかす態度を示したことから発言したものであり、「お前みたいな税金泥棒が居ることを、本当の事を言っちゃ駄目なのか」の発言は、VがD10課長の質問に答えることなく、D10課長着任前の出来事の不満を繰り返したための応答であり、発言内容に不適切なものも含まれていることは否めないものの、これをもって不法行為ということはできない。「俺にいわせりゃあんなの暴力じゃないよ」発言も⑯が不法行為とならない以上、不法行為は成立しない。

      ・国賠事案であるため、Dらの個人としての不法行為責任は否定され、都の賠償責任のみが認められる(国賠法の解釈により、公務員個人は責任を負わないとされている)。



 9. まとめ

今回のコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)の裁判について詳しく解説してまいりました。組織のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口に寄せられた相談の初動対応を間違えると被害感情が悪化して裁判に至るケースも多くあります。パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景は事案により異なりますが、受け手(被害者)の心情に配慮しながら、パワハラ裁判事例を参考にしつつ、慎重に対応をすることが求められます。


近時は、パワハラ(パワーハラスメント)の事案が増えており、最悪のケースになると命を失う人も出てきます。パワハラ(パワーハラスメント)は企業と個人の存立に多大なる影響を及ぼすリスクの高い経営課題であると認識し、パワハラ裁判に至ることがないよう企業も従業員も尽力することが重要です。  



 最後に

パワーハラスメント(パワハラ)対策でお困りの企業様は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会までご連絡ください。パワーハラスメント(パワハラ)加害者(行為者)更生支援研修、パワーハラスメント(パワハラ)防止研修をはじめ、パワーハラスメント(パワハラ)を防止するための各種サービスをご提供しております。日本全国の皆さまからのご連絡をお待ちしております。


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