パワハラ裁判例~行為者の懲戒解雇は請求棄却~
パワハラ裁判例~行為者の懲戒解雇は請求棄却~
パワハラ裁判例~行為者の懲戒解雇は請求棄却~
- 判例のポイント
- 部下に対するパワハラその他の4つの非違行為が認められたため、懲戒解雇を受けたところ、行為者が懲戒解雇を争って提訴した事案(精神的な攻撃)で、請求棄却した判例。
- 閉鎖的な職場における精神的な攻撃の事例。
- Vが被害を訴えたメールとVが受診した精神科医師の診療録がパワハラの事実認定にとって重要な証拠となった。
- 行為者(加害者): D(電算課課長心得)
- 受け手(被害者): V(病院事務部に在籍し、電算室でDと2人で業務を行うことも多かった)
- 勤務先: 複数の病院を付属施設として有する財団法人の電算課
- 背景
- Dは平成13年4月から電算課の課長心得であり、上司は病院事務長であった。
- 電算課所属の従業員はDとEであり、Dは地下一階の電算室に常時詰めて執務していた。
- 電算室で執務していたのは、DとEのほか病院事務部のVがおり、EとVは、電算室での業務と病院関係の業務(電算室外)を半分ずつ程度の割合で行っていた。
- 財団では、年次有給休暇取得の定めに希望日の1週間前までに所属長(Dの場合は事務長)の承認を得ることと規定されているが、Dは、事務長の承認を得ないことが多く、事務長がDに対し、2回にわたり書面で注意、指導していた。それでもDは従わず、3回にわたり、電算課のEに連絡したのみで欠勤した。
- Dは、私物のパソコン12台を持ち込んで執務を行っていたところ、財団理事長が、書面で私物のパソコンを早急に引き上げ、当該私物のパソコンに財団のデータが保存されている場合、財団にそれを引き渡すこと、業務には財団所有のコンピューターを使用することを指示するとともに、個人情報保護法の観点から、電算室内に個人所有のコンピューターを持ち込むことを禁止した。
- 財団では病院情報システムをTJ社の新システムに変更することが検討され、各部署の長が出席する連絡会が開催され、Dも電算課の責任者として連絡会に出席した。この席でDは、今から新システムを導入するのは間に合わない、自分としては責任を持てない旨発言し、院長から、責任を持てないのならば、新システムの導入を担当する必要はない旨告げられた。このため、Dは電算課の課長心得という立場にあるにもかかわらず、新システムを導入するための委員会である新医療情報システム導入委員会の構成員に加わらないこととなった。
- Dの非違行為
- (パワハラ)Vは事務長の指示で、電算室で、S社の健診システムのテスト業務を行っていたが、システム障害が次々に起こり、1年近くたってもテスト業務が終了できなかった。Vと電算室で二人きりで業務を行うことが多かったDは、このような状況を見て、Vに対し、苛立った様子で、「1年近くやっているんだから、さっさと終わらせろ」などと言った。また、冗談交じりの言い方で、「S社の社員じゃないの」とか「S社から給料もらってるんじゃないの」などと皮肉めいたことを言った。
結局、S社の健診システムは採用されず、違約金を支払って中途解約されたが、Dは、必要がないにもかかわらずS社に違約金を支払ったとして、事務長の対応を背任行為に当たるなどと非難していた。そのような中、DはVに対し、別の業者の担当者とVが連絡を取り合い背任の片棒を担いでいる等と罵るようになった。また、Vが、TJ社の新システムの導入に関して、事務長から命じられて各部署のヒアリングを行っていたことについて、「君はどういった権限でそのようなことをこそこそとやっているんだ。」「これ以上そのような行動をとるなら宣戦布告をするからな。」「今の状況ならV君はここにはいらない。」などと言った。このようなDの言動を苦痛に感じたVは、欠勤するに至り、事務長に対し、メールで状況を訴えた。
その後もDは、Vに対し、「パソコンの解像度が変わってる。V君が覗いているんだろう。」「インターネットの履歴を見て事務長に告げ口してるだろう。」「事務長の犬が。」などと罵った。更に、DがVに事前に日時を伝えて指示していた作業の現場にDが作業開始してもVが現れなかったことから、その後にあらわれたVに対し、「どこに行ってたんだ。」「どこから給料をもらってんだ。」「わざと(作業のときに)いなくなった。」「もういいから、しなくていい。」などと怒った。Vは早退してしまい、約2か月半にわたり欠勤した。Vはうつ病と診断され、都合8回、精神科に通院し、事務長に退職したい旨申し出て事務長が遺留することもあった。
- 出席資格がない新システム導入委員会に出席しようとし、事務長から「退出しないと業務命令違反になる」と退出を命じられたが従わずに「出席させろ。」と居直り、委員会の開始が10分遅れた。
- 漏水の危惧に床に穴を開けて対応したいという要望が専門家の意見により受け入れられなかったところ、会社に無断で、電動ドリルで床に穴を開けた。
- (無断欠勤)上司への連絡許可を怠り課員への連絡で済まして欠勤した。
- 事業無視の対応・提訴の事情等
- 会社は、①~④などの事由をあげてDを懲戒解雇した。
- Dの敗訴
- Dは、懲戒解雇無効と、残業代の未払い賃金支払等で訴訟提起した。
- 判決の概要
- 東京地裁は、懲戒解雇を有効とした(懲戒解雇無効に関する請求は棄却)。
- 時間外、深夜、休日の割増賃金請求約334万円は認めた。
- 判決の理由
- 4つの非違行為を認定して、①は、言動の内容自体からしても、先輩職員からの指導というレベルを逸脱し個人攻撃の域に達していることは明らかであるから、いわゆるパワーハラスメントというべきものであると認められるから、重大な非違行為といえる。
- Dは①の言動を否定しているが、東京地裁は、Vの事務長にあてたメールやVが通院していた医師の診療録などを証拠として採用し、認定した。Vのメールについては、「Vがあえて虚偽の事実を述べる動機もなく、その内容も迫真性に満ちたものであって、充分に信用することができる」とした。
- ③についても、それ自体重大な非違行為であり、②③についてはそれ自体では直ちに懲戒解雇に該当するとは言えないとしても、軽視することができない規律違反行為である。
- 以上を総合すると、上記各事実を懲戒事由とする本件懲戒解雇には合理的な理由があるというべきであるし、それが社会通念上相当性を欠くということもできない。
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