パワハラ裁判例~パワハラ請求棄却/試用期間解雇無効~
パワハラ裁判例~パワハラ請求棄却/試用期間解雇無効~
パワハラ裁判例~パワハラ請求棄却/試用期間解雇無効~
- 判例のポイント
- パワハラを否定した判例(パワハラは請求棄却)
- 試用期間中の解雇無効は認められている
- 受け手に多くの業務上のミスがあった
- 行為者(加害者): D1(課長代理)、D2(Vの先輩職員)、D3(事務次長)
- 受け手(被害者): V(健康管理室の事務総合職。新入職員)
- 背景等
- 健康診断問診票の記載内容を、コンピューターに入力する際のミス
- 計測結果の入力ミス
- 受診者の住所入力不備により、検査結果通知が4通返戻された
- ゴム印押印、用紙封入の失念
- 順路案内表の記載ミス
- 聴力検査における左右逆の計測
- D1課長代理やD2が電話中であったり受診者と対応中であっても、「何をすれば良いですか?」と聞くことがあった。
- 病歴整理をする際の整理番号書き間違え
- 病院外ないし病院内よりの電話への対応における不備(相手先・用件メモ等不備)
Vは、健康管理室の事務総合職として採用されたが、パソコンに関する実務経験がなかったことから、3ヵ月の試用期間を設け、月に1回面接を行うこととされていたが、入職直後から次のような不適際が多かった。
- Vが主張する同僚・上司の言動
- 病院(使用者)が健康管理室において、必要な指導・教育を行わないままVを職務に就かせ、業務上の間違いを誘発させたにもかかわらず、Vの責任としてD1課長代理またはD2が叱責した。
- Vを無視して職場で孤立させるなどのいわれなき職場いじめが始まり、同僚らがそれを日常的・継続的に繰り返した。
- D1課長代理またはD2が、第1回面接において、Vに対し、業務中に他の職員から教えられたこと等のメモは自宅で復習し自らの課題を確認することを指示したにもかかわらず、Vがメモを健康管理室の机に入れたまま帰宅して同指示に従っていないことに対する制裁として、メモを入れたVの机に鍵をかけた。
- 試用期間中の第1回面接および第2回面接において、D1課長代理およびD2次長が退職を強要した。
- Vが病院職員で組織する労働組合に加入したところ、昼の休憩時間の食事中に、D1課長代理が「前に努めていた大学病院はZ党系で、組合員立ち入り禁止と貼ってあった」、「組合員って、権利、権利言うけど、患者の命を放っておいて、何が権利か」などと発言した。
- Vの状況と会社の対応等
- Vの精神状態が悪化するなどし、Vは欠勤し休職届を病院に郵送するなどした。
- 病院は、Vに対し「事務能力の欠如により、常勤事務としての適性に欠ける」ことを理由に採用を取り消すとの解雇通知を発送した。
- Vの提訴
- Vは、採用取消(解雇)は無効であるとして雇用契約上の地位確認と賃金請求のほか、パワハラ等による安全配慮義務違反または不法行為責任による損害賠償請求をして、提訴した。
- 判決の概要
- 東京地裁は➀~➃の言動について不法行為の成立を否定し、安全配慮義務違反または不法行為を理由とする損害賠償請求は棄却した。他方で、解雇は無効とし、Vの労働契約上の地位を認めた。
- 判決の理由
- Vの業務遂行について病院による教育・指導が不十分であったということはできず、Vの事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、これに対するD1課長代理やD2による都度の注意・指導は、必要かつ的確なものというほかない。一般に医療事故は単純ミスがその原因の大きな部分を占めることは顕著な事実であり、そのため、D1課長代理が、Vを責任ある常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返すVに対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき常務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない。
- 試用期間中の第1回面接において、D課長代理からVに対して他のスタッフと和気あいあいとやってくれているとの評価がされていること、Vが看護師から、第1回面接のあった日ほかに病歴室で長い間励まされたことからすれば、Vを無視して職場で孤立させるようなことが行われていたと認定するのは困難であり、Vの主張を認めるに足りる証拠はない。
- D1課長代理またはD2が意図的にVの机の引き出しに鍵をかけたとすることは多大な疑問であるし、仮に制裁として机の鍵をかけた事実があったとしても、メモが入ってはいるが貴重品は入っておらず、Vから鍵前屋を呼ぶようにとの要請もなかったことや、Vはメモを見ずとも、入力ミスを指摘されることもなく業務を遂行していることからすれば、不法行為を構成するほどの違法性があるとまではいえない。
- 各面接は、Vの勤務態度・勤務成績に対する評価と、Vにさらに頑張るよう伝える内容のものであり、D1課長代理およびD3次長は、Vを退職させる意思も権限も有していなかったのであるから、退職強要をしたとの事実は認めることはできない。
- D1課長代理が同発言をした前後の経緯が何ら明らかでないために、同発言だけをもってパワハラと認定するには無理があるばかりか、同発言はD1課長代理の経験に基づいた意見を述べているに過ぎないのであって、Vを非難するような内容のものとは解し難く、また、Vの第1回面接および第2回面接並びに日常的な指導について、Vがこれを退職強要またはいじめ・冷遇と捉えていることに対して、D1課長代理が病院業務における業務の厳しさを諭す一例として話した可能性もあり、結局、D1課長代理の発言をもってVに対する不法行為と認定することはできない。
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