パワハラ裁判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~
パワハラ裁判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~
パワハラ裁判例~教授・病院・大学へ損害賠償命令~
- 判例のポイント
- 大学病院におけるパワハラの事案(精神的な攻撃・過少な要求・人間関係からの切り離し)
- 行為者(加害者): D(耳鼻咽喉科教授)
- 受け手(被害者): V(医師。耳鼻咽喉科の医局員である助手)
- 背景等
- Vは当病院に赴任するまで15年以上、勤務医師等として働き、複数の病院で耳鼻咽喉科部長を勤めた。
- Vは、当大学病院の耳鼻咽喉科の教授選において、同科の医局からP助教授が推薦されていたにも関わらず、上司であるA前教授に相談することなく独自に立候補したため、A前教授が激怒し、Vを医学部の学生に対する教育担当と当病院における全ての臨床担当から外し、関連病院への外部派遣による診療担当を残した。
- 教授選ではP助教授が破れてDが耳鼻咽喉科教授に選出され、平成6年にDが教授に就任した。
- D教授による過少な要求、人間関係からの切り離し
- Vの処遇を継続し、平成6年から10年以上にわたって当病院の臨床担当をさせなかった。
- 同様に、10年以上にわたって教育を担当させなかった。
- Vは、自主的な研究活動は続け、外部派遣を引き続き担当していたところ、平成8年ころにA病院からVの診療態度等についてクレームが寄せられている旨を伝えてA病院への派遣担当から外した(事実関係を確認したり、クレームの具体的内容を説明したりすることはなかった)。平成11年にはB病院への派遣担当からも外し、全ての外部派遣担当から外した(Vの弁解を聴取したり、上記クレームの原因となるような言動ないし態度を改めるように指導することはなかった)。
- その後
- Vは、当大学病院において、自主的な研究活動以外に担当する職務を有しないことになり、D教授らは、Vに対し、当大学病院を離れて他の病院等に転出することを勧め、転出先の病院を具体的に紹介するなどしたが、Vはこれに応じなかった。
- Vは、大学の理事長が交代した際などに、D教授らに対し、何度も臨床担当に復帰させてほしい旨要望したが、D教授らはこれを拒否し続けた。その主な理由は、Vが大学病院におけるすべての臨床担当から外された後の平成10年ころ、D教授に対し、他大学の教授選に立候補するためにも臨床を担当させてほしい旨述べたことがあったことから、そのような動機によって臨床に復帰させるのは相当ではないというものであった。
- Vは平成16年に大学の理事長が交代した際に、改めて臨床担当への復帰を要望し、一部復帰した。
- Vの提訴
- Vは、D教授から違法な差別的待遇を受けたと主張して、D教授に対しては不法行為に基づき、大学と大学病院に対しては使用者責任に基づき、連帯して1500万円等の支払を求めて提訴した。
- 判決の概要
- 大阪高裁は、D教授の行為の内➀と➂について不法行為責任を肯定し、D教授、大学および大学病院に対し、慰謝料200万円等の損害賠償を命じた(連帯責任)。
- 判決の理由
- (大学らは、Vは大学病院に勤務する医師としての資質に欠けていたことから、すべての臨床担当から外すことにしたものであり、人事権の行使として著しく不合理であるとはいえない旨主張した)大学らは、Vに対する具体的な改善指導を行わず、期限の定めのないまま、Vをいわば医師の生命ともいうべきすべての臨床担当から外し、その機会を全く与えない状態で雇用を継続したというものであって、およそ正当な雇用形態ということはできず、差別的な意図に基づく処遇であったものと断定せざるを得ない。
- 大学病院に勤務しているとはいえ、教育に従事することが必要不可欠であるとまではいえない上、教育という性質を考えると、学生に対する教育担当者の適正判断については大学の理念および方針に基づく独自かつ広範な裁量に委ねられるものというべきであるから、教育担当から外されたことが著しく不合理な処遇であったということはできない。
- 外部派遣先の病院からクレームは3件程度にとどまることからすると、大学病院におけるすべての臨床担当から外さなければならない程度の事情があったとまでは認めるに足りない。仮に、Vについて深刻な資質上の問題点が存在したというのであれば、大学らとしては、前述のような指摘と指導をすべきであって、そのような指摘・指導をすることなく、すべての外部派遣の担当から外したというのは、職員に対する人事権の行使として合理的な裁量の範囲を逸脱したものというほかない。
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