パワハラ裁判例~自殺した従業員へ約6142万円の賠償~

パワハラ裁判例~自殺した従業員へ約6142万円の賠償~

パワハラ裁判例~自殺した従業員へ約6142万円の賠償~

  • 判例のポイント
    • 繰り返し不適切な行為をする従業員Vに対し、上司が我慢の「決壊点」を超えてパワハラ(精神的な攻撃)に及び、これが一因となって、受け手が自殺した事例。
    • 上司の言動の一部について不法行為を構成するとして精神的苦痛に対する慰謝料等(110万円)を認めたが、不法行為と自殺との相当因果関係は認められないとして、自殺についての損害賠償までは認めなかった。
    • 受け手側にも問題行動がみられた。

  • 判例のポイント
    • 上司による業務上の注意・指導に悩んだ従業員が自殺した事案。
    • 上司による注意・指導は違法とはいえず、上司には不法行為責任が認められない(使用者の使用者責任も認められない)とする一方で、使用者については安全配慮義務違反による固有の責任を認めて、自殺を含めた損害に対する賠償(約6142万円)を命じた。 
    • 裁判上が違法なパワハラと認めない言動(グレーゾーン)の具体例がうかがえる裁判例である。 
    • グレーゾーンであっても放置すると会社が民事責任を問われることがあることがわかる裁判例である。 

  • 行為者(加害者): GとH(主査としてVが処理した書類の審査を担当)
  • 受け手(被害者): V(入社16年で地域職から事務センター職に異動し、主任として業務に従事した男性従業員)

  • 背景と状況
    • Vが異動した職場は、課長D、係長F、主査G・H、主任2名(Vほか1名)、期間雇用社員数名が所属し、席の配置は、D課長の斜め前にV、Vの右横がG主査、G主査の前がH主査、G・Hの横にF係長という状況で、Vの状況について、上司は把握できる状態にあった。  
    • Vは、業務処理のスピードが遅く就業間際に残業を申し出ることが多く、D課長がGやHら他の社員に仕事を割り振って残業を認めないこともあった。また、Vは頻繁にミスを発生させ、事務室内を小走りにばたばたと動き回ってGやHから注意されたりしていた。  
    • Vは、赴任後数か月で元の業務への異動を希望し、その後も継続的に異動を希望し続けたが、ハラスメント相談窓口への訴えはなく、数回出されていた異動希望書にもハラスメント等の記載はなかった。他方で、Vは同僚に、「地獄」「早く脱出したい」「こんな所消えて無くなれ」等のメールを送るようになり、実家でもGやHをひどい上司と言うなどしていた。  

  • G・H両主査の言動等
    • (強い口調)「ここのとこって前も注意したでえな。確認せえかったん。どこを見たん。」「どこまでできとん。何ができてないん。どこが原因なん。」「何回も見ようよな。マニュアルをきちんとみながらしたら、こんなミスは起こるわけがない。きちんとマニュアルを見ながら、時間がかかってもいいからするようにしてください。」
      (小走りでばたばた走ると)「(大声で)走られん。」「ばたばたうるさい。」  
    • Vの異動1年後の人員配置変更により、Vが電話をとる回数が増えるとともに、書類のミスとG・H両主査によるミスの指摘が増え、G・Hは、強い口調で叱責するようになり、親しい知人が呼んでいたあだ名「こう」で、「こうっ」と見下すように呼び捨てして叱責した。  
    • 他方で、G主査は、Vら部下の指導に悩み、ストレス障害、自律神経失調症を発症し、Vのことは精神的に受け付けなくなっているなどと発言した。  
    • Vの異動後約1年8か月のころには、Vが他の従業員に「死にたい」と言うようになり、その従業員がG・HやF係長に伝えるが、3名とも真剣に受け止めなかった。このころには、Vは体重が15kg減少し(70kg→55kg)、F係長が気にかけるほど体調不良の状態が明らかとなる。  
    • 異動約2年後に、実家に帰省したVが妹に「一生職場から出られない」と嘆き、実家の居室で自殺した(43歳)。

  • 遺族による提訴
  • Vの遺族(母)が、Vはパワハラを受けて自殺したとして、会社に対して、使用者責任または雇用管理上の義務違反による債務不履行責任に基づき、約8190万円の損害賠償請求をして提訴した。


  • 判決の概要
  • 徳島地裁は、G・H両主査の言動は違法とまではいえず、G・Hは不法行為責任を負わないから、会社の使用者責任も認められないとしつつ、会社の安全配慮義務違反は認められるので、会社は債務不履行責任として、約6142万円(逸失利益約3582万円+慰謝料約2000万円+弁護士費用等)の損害賠償義務を負うと判示した。


  • 判定の理由: 不法行為責任の否定
    • G・H両主査の言動は、部下に対する指導としての相当性には疑問があると言わざるを得ないが、部下の書類作成のミスを指摘し改善を求めることは社内ルールであり、主査としてのG・Hの業務である上、Vに対する叱責が日常的に継続したのはVが頻繁に書類作成上のミスを発生させたことによるのであって、理由なくVを叱責していた事情も認められず、G・Hの発言内容は人格的非難に及ぶものとまではいえないから、G・Hの発言の内容は人格的非難に及ぶものとまではいえないから、G・HのVに対する一連の叱責が、業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとまでは認められない。



  • 会社固有の責任の肯定
    • 少なくともF係長は、Vの体調不良や自殺願望の原因がG・Hとの人間関係に起因することを容易に想定できたから、F係長およびD課長は、Vの執務状態を改善し、Vの過度の負担が生じないように異動を含めた対応を検討すべきであったところ、特に対応していないから、事業主には安全配慮義務違反が認められる。 




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